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南海トラフ巨大地震 被害想定見直しで範囲が拡大 福島県でも津波予想 経験が油断にならないように

2025年3月に見直された、南海トラフ巨大地震の被害想定。今回の見直しでは、避難行動がとれなくなるとされる30センチ以上の浸水域は、前回10年ほど前の公表と比べ約3割増加。最大震度7が想定される自治体も、全国で143市町村から149市町村に増加と影響範囲が拡大している。福島県内の被害想定も見直された南海トラフ巨大地震。私たちの「防災意識」も変えていく必要がありそうだ。
福島県で最大4メートルの津波
静岡県沖から宮崎県沖まで約700キロにわたって続くトラフ・くぼ地沿いで予想される巨大地震「南海トラフ地震」。
2024年8月には、宮崎県の日向灘を震源とする最大震度6弱の地震をきっかけに、初めて「南海トラフ地震臨時情報」が発表され「巨大地震注意」が呼びかけられた。
このときにはまだ「南海トラフ巨大地震」に伴う福島県への津波の被害は想定されていなかったが、2025年3月に国は最新の地形データをもとに被害想定を見直し、福島県にも最大で4メートルの津波が予想された。
地震・津波の程度に合わせ対応
福島県災害対策課の佐久間止揚課長は「想定外の話だったが、東日本大震災以降、我々は津波対策をとってきた。防潮堤だと日本海溝・千島海溝の津波の想定をしていて、この津波高だと、それほど影響は受けないのではないか。今回の見直しによって対応を変えた部分は、特段ないという状況」と話す。
福島県は「南海トラフ巨大地震」では、マグニチュード8以上の地震発生とされる「巨大地震警戒」で情報収集体制をとるとしているが、より福島県の近くで災害が発生することも想定し、基本的には県内で観測・予想される地震や津波の程度に合わせて災害対応を取る。
一方「南海トラフ」の新たな想定では、避難行動がとれなくなる高さ・30センチ以上の浸水域が最大で11万ヘクタールを超え、前回の想定よりも約3割増加した。
津波を経験 教訓に
福島県としても「南海トラフ」は決して他人事ではない。海に面する観光物産施設、福島県いわき市の「いわき・ら・ら・ミュウ」は、2011年東日本大震災の津波で1階が壊滅的な被害を受けた。その教訓を踏まえ、施設の入り口に災害時の避難経路を示すポスターを掲示している。
いわき市観光物産センターの小玉浩幸さんは「当時は我々も、これほど被害の大きい津波は経験したことがなかった。特に長年この小名浜に勤めている従業員は、津波の警報があっても、後片付けなどで逃げ遅れるという状況があった。津波が襲って、胸や肩まで浸かるような状況まで逃げ遅れ、それほど津波が襲うスピードもはやかったということでしょうね」と振り返る。
海沿いの観光施設 観光客の避難も課題
福島の観光資源のひとつ「海」を求めて、年間160万人が訪れる「いわき・ら・ら・ミュウ」。従業員だけではなく観光客への呼びかけも大きな課題だ。テナントも含め、スタッフに配られている防水仕様のマニュアルには、いざというときに焦らないよう避難行動だけでなく「避難の呼びかけ」の仕方も記載している。
いわき市観光物産センターの小玉浩幸さんは「南海トラフ巨大地震で、いわき市もほぼ全域にわたって浸水の被害が予想されるということが発表され、我々もちょっと衝撃です。ロケーション的には非常に最高の場所ですけれども、やはり海の怖さというものも知ってほしい。我々の自然災害との向き合い方も、非常に大事かなと思っています」と話した。
経験が油断に 心構えの危うさ
東日本大震災を経験した福島だからこそ徹底されている備え。一方で福島県は「震災を経験しているからこそ」の心構えの危うさも指摘する。
福島県災害対策課の佐久間止揚課長は「東日本大震災を経験した福島としては、震度4だと津波が来るという認識がなかなか持ちにくいのではないかと考えている。この点が今回の発表で注意しなくてはならないところと認識している。震度4でも津波が来るのだということは、改めてこの発表を受けて県民の方、そして福島県に観光で来られる方に対して周知をする必要があろうと思っている」と話す。
これには、東京大学大学院の客員教授で防災行動や危機管理の専門家・防災マイスターの松尾一郎さんも「南海トラフ地震が福島に与える影響は、小さな揺れが続くことが想定される。津波は遅れて来るので、逃げる時間は十分にある。自治体からの呼びかけに注意してほしい。それよりも、大きな地震の前後には、内陸で発生する直下地震や太平洋沖合で起こる海溝型地震に注意したい」と話した。
イエローゾーンの確認を
もちろん、私たちが気を付けるべきは南海トラフ巨大地震だけではない。東日本大震災のように、震源が近い巨大地震では大きな津波が想定されている。
福島県は2025年3月に「最大クラスの津波で浸水する範囲」を「イエローゾーン」に指定した。「イエローゾーン」は「津波災害警戒区域」と呼ばれ、建築などの制限はないが建物の取引では「警戒区域にあります」ときちんと説明する法的な義務が生じる。
南海トラフ巨大地震の被害想定の見直しもだが、台風などのように毎年気にするような災害ではないだけにこういった情報もこれを機に一度覗いてみてほしい。
防災マイスターの松尾さんは「南海トラフ地震はいつ起こってもおかしくない。揺れはそれなりにあるし、津波も来る。日本に暮らす以上、地震や津波への事前の対策は、忘れずに続けてほしい」と話した。