急拡大するメガソーラー計画 地元とのあつれき 太陽光発電の理想と現実のはざま《福島重大ニュース》
2024年の重大ニュースをシリーズで振り返る。今回のテーマは「太陽光発電の理想と現実」。導入が急拡大する一方、立地をめぐり地元との摩擦が生まれている。
<建設中止を求める活動>
2024年10月。休日のJR福島駅前で、署名運動が行われていた。
呼びかけるのは、福島県福島市・先達山で建設が進むメガソーラーの計画中止だ。
「反対」ボードにシール貼る通行人は「(先達山メガソーラーは)いやだ」という。この日は数十人分の署名が集まった。
吾妻山の景観と自然環境を守る会・矢吹武会長は「これからが戦いの本番だという風に思います。とにかくあの工事はやっぱり撤回してもらうと」と語気を強める。
<福島市にメガソーラー建設計画>
東京の合同会社が2025年夏頃の竣工を目指す「先達山太陽光発電所」。
森林を伐採し東京ドーム20個分の敷地に、太陽光パネルを10万枚以上敷き詰め、一般家庭の年間消費電力約1万6000世帯分を発電する計画だ。
山肌がむき出しとなり、景観の悪化を指摘する声が相次ぐ中...。2024年6月には工事の影響で、ふもとの集落の農業用水路が泥水で濁り、県道にも流出、災害発生への不安が高まる事態に。
<設置規制の条例制定目指す福島市>
福島市内だけで26に上るメガソーラー、いま福島市は対応に追われている。
「市としての思いは第二の先達山は出してはならない。私共としては、それなりに覚悟を持った条例の内容になっていると考えています」と話す福島市の木幡市長。
福島市が2025年4月の制定を目指すのが、メガソーラーの設置を規制する条例だ。市の面積の約7割を設置の禁止エリアに指定するなど強い内容となっている。
2023年8月に「ノーモアメガソーラー」を宣言してからも、次々と事業計画が寄せられるメガソーラーに条例で歯止めをかけるためだ。
<福島県はメガソーラー先進地>
住民や自治体との間に生まれる"あつれき"。
一方で、県内はメガソーラーの"先駆けの地"になっている。2024年3月時点で福島県内には194の太陽光発電所があり、最大出力は合わせて約168万kW。他県に大きな差を付けて全国一の発電能力がある。
県内の再生可能エネルギーの導入量は2023年度、初めて消費電力に対して100%を超えた。県が掲げる導入目標を3年前倒ししての達成で、県議会の9月定例会では...。
福島県の五月女企画調整部長が「引き続き、先進技術も積極的に活用しながら『再エネ先駆けの地』の実現に向けた取り組みを着実に進めて参ります」と答弁した。
<原発事故で再エネ導入推進>
その導入促進の"旗印"となっているのが、原発事故から一年が経った2012年4月に発表された「推進ビジョン」。ここで掲げられたのが「2040年までに県内のエネルギー需要に対して100%の再生可能エネルギーを導入する」という目標。
この策定に携わったのが、再生可能エネルギーなどを専門とする福島大学の佐藤理夫教授だ。「とにかく大震災と原発事故で、コンセントの先にあるもの、どこで発電してどうやって送電されてるんだろうってことを意識しなければいけない時代が来たんだということは、(策定当時の)共通認識だったと思います」と振り返る。
<エネルギーの地産地消と復興>
佐藤教授が思い描いたのは、再生可能エネルギーを通じてエネルギーの"地産地消"を進め、復興や産業振興につなげることだった。
福島県川俣町山木屋地区。「ここそれほど雪も降らないですから、雪で発電ができない時っていうのは、ほぼないくらいですね」
「川俣町山木屋地区復興メガソーラー」は、原発事故で一時避難を余儀なくされた山木屋地区に2015年に完成。町や地元企業でつくる合同会社が約8600枚の太陽光パネルを設置し、一般家庭約500世帯分の電力を生み出している。
<形にしたスキーム>
このメガソーラー計画に、佐藤教授はアドバイザーとして参加し、ひとつのスキームを形にした。それは山木屋で作られた電力を復興拠点となる地区の商業施設に供給。"地産地消"した上で余った分は東北電力に売電。川俣町には、これまでの平均で年間6400万円の売電収入が入っていて、その一部を復興事業に活用するというものだ。
事業に参加した川俣町の企業大弥大内周一郎さんは「復興をどのように進めるかっていう中で、一つの事業として、このソーラーで事業をやって、その収益を地元に落としていこうということでスタートしたんですね」と話す。
しかし...予想以上に急拡大するメガソーラー。理想と現実は違っていた。
<理想と現実のはざま>
佐藤教授は「再生可能エネルギー事業は、出来るだけもっともっと県内の事業者にやってほしかったなと思います。この部分が現状ちょっと理想とはずれてしまったのかなと思うんですけど。県内の事業者が丁寧な施工をして、その利益がその企業などを経由して県内に残ってほしかったなと思います」と話した。
<県南地方でもメガソーラー計画>
福島県西郷村の羽太地区。住民の近藤一雄さんは「これみんな削られちゃって、流れてきた水の勢いで削られちゃったんですね」と話す。
東京の会社が2019年から建設を始めた「BluePower福島西郷太陽光発電所」。約4万8000枚の太陽光パネルで、一般家庭約3000世帯分に相当する電力を生み出す計画だ。
現場のすぐ近くに住む近藤さんは、この計画に不信感を募らせている。「説明会であった資料の中にも『防災工事を最初にやりますよ』『優先してやりますよ』っていうな内容だったはずなんですけども、それがなぜか、順序が全く違うなっていうことで」という。
<垣間見える利益優先の姿勢>
福島県の内部文書から見えてきたのは、"利益最優先"ともいえる事業者側の姿勢だ。この工事現場では、大雨の際に度々周辺の農地などに土砂が流出。県は防災工事を優先的に行うよう指示したが、その約束は守られなかった。
「資材(パネル)について、下方へ流出すると危険であり、施工した方が危険でないと考え施工してしまった」
安全対策を軽視し、パネル設置にこだわった理由は"資金繰り"とみられている。
「私情になるが、銀行との約束で12月まで竣工としていたものの、間に合わず、現在に至っており、今後、3月を超えると違約金が発生することとなる」
ずさんな工事により近藤さんの田んぼも被害を受けた。近藤さんは「もう本当に思い出すと嫌になってしまうけど、言わざるを得ないときもあるじゃないですか、もう我慢しきれなくて」と訴える。
県内各地で波紋を広げるメガソーラー。再生可能エネルギーは地域を豊かにするのか。原発事故から14年が経とうとするなか、福島が揺れている。