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防災大百科

鏡石、他者を思いやる、希望のまちへ

災害から住民の命を守るために、市町村では様々な防災対策を進めている。市町村の代表者である市町村長や住民代表から、それぞれの地域の防災「わがまち防災自慢」について話を伺う。今回、東京大学大学院の客員教授で防災行動や危機管理の専門家・松尾一郎さんが訪ねたのは、令和元年東日本台風で被害を受けた鏡石町。

◇【動画】被災経験から独自の環境整備をすすめる《わがまち防災自慢・鏡石町編》"普段使い"の防災
◇「動画】廃業しても命を最優先 河川決壊から地域を守る遊水地 移転を迫られる住民の重い決断【福島発】

<独自の環境整備>

2019年、阿武隈川の氾濫によって鏡石町では約100世帯が浸水。1人が避難中に亡くなった。同じ被害に遭わないために、鏡石町では農地だったところに調整池を整備。この「防災調整池」は25メートルプール30杯以上の雨水をためることができる。調整池の他にも、独自の取り組みが進んでいた。

<防災機能も備えた浄水場>

命を守る重要なライフライン「水」を供給する浄水場も整備。「防災」の機能も兼ね備え、2022年10月から運用が始まった。大規模な災害が起きると、家庭での断水や長期にわたる避難も想定され「水の確保」が重要になる。100台ほどの駐車スペースを設けることで災害時に給水施設になる、災害対応型の浄水場だ。木賊正男町長「ここに来れば水があると。大規模災害の時の住民の皆さんの頭の中に入っていれば、水を確保しに来れる施設だと思う」と話す。

<災害弱者へのサポート>

そしてもう一つ、新たな防災施設が完成した。2023年10月10日に開所したセンターは、普段はキッズスペースで子どもたちが遊べたり、健康や福祉に関連する町の担当部署が業務を行ったりする。日常で行われている、子どもや高齢者・障がいを持つ人へのサポート体制が災害時もそのまま機能できるメリットがある。
木賊町長は「自分でできることを、まず自分で。自分の安全を守っていくというのが大事だと思う。それからみんなで、地域コミュニティの中で助け合っていく。そして、それの補完として、公助という形でこのような施設を作りながら皆さんの命を守るのが大事」と話した。

<防災マイスターの取材後記>

東日本台風でも、東日本大震災でも鏡石町は被災した。このような防災機能を持った水道施設というのは、スペースも広く確保していて有事を想定したものになっている。また健康福祉センターも、子どもからお年寄りまで幅広く対応できる施設になっている。鏡石町のような先進例というの全国的にあまりなく、参考になる防災施設だった。取材していていつも思うのが「町の主役は町民そのもの」ということ。でも地域をどう導くかは、首長の思いと行動力にあると思っている。鏡石町では、そのことを再認識したところ。

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災害から命を守るための取り組みが行われているのは、自治体だけではない。福島県鏡石町で、命を最優先にした「住民の決断」があった。被害者ゼロをめざす住民の動きを取材した。

<対象エリア住民は移転を求められる>

あらゆる関係者が一体となり洪水対策を行う「流域治水」という。その一つとして国が主導して進めるのが「遊水地」 これは大雨の際、低くしておいた堤防からわざと河川の水をあふれさせ、遊水地に一時的に溜めることで、下流に流れる量を減らすというもの。
福島県では、阿武隈川の上流部に位置する鏡石町・矢吹町・玉川村にまたがる形で2028年度までの整備を目指していて、対象のエリアの住民に高台移転を求めている。

<迫る水に感じた命の危険>

遊水地整備が計画されている鏡石町成田地区は、コメやキュウリの栽培などが盛んな地域。農業を営む圓谷正幸さんは、東日本台風の際は押し寄せた水にただ恐怖を感じていたという。「パレットに積んで置いたコメが、浮いて流れて作業所のドアを破った。ちょうどそこに息子がいてガラスで足を切ってしまった。そのタイミングでブレーカー落ちて真っ暗になってしまい、息子が死んでしまったのではと一瞬考えてしまった」と圓谷さんは振り返る。

<雨が止んだ後にやってくる>

幸い息子のケガも大事には至らず家族も無事だったが、前の年に建てたばかりの住宅は床上浸水し、田んぼや農業用ハウスにも大きな被害が出た。圓谷さん「雨がおさまり、みんな安心しちゃった時ですよね。やっぱり後から来るんです、この地区は。雨やんだ後、水が寄ってくるというか」と語る。

<圓谷さんも移転を迫られる>

東日本台風の被害を受けて、整備が進められる遊水地は、土地の買収の準備や対象となる住宅の高台移転の調整が行われている。圓谷さんの土地も対象だ。「先祖代々の土地をなくしていいのか葛藤もあった。でもそれを言いはじめると、遊水地はできない」と圓谷さんは話す。

<離れた下流の自治体も助ける>

遊水地は、阿武隈川上流の3つの町村だけでなく、下流にある郡山市や須賀川市・本宮市の被害を軽減する役割も果たす。圓谷さんは、自宅と農業用ハウスの移転を考えているが、先祖代々の水田は他の場所には移せないため、コメ作りは廃業すると決めている。

<コメ作り廃業の決断>

圓谷さんは「同じ災害はあってほしくない。災害にあってる所は、同じところだから、一回でもなくなればいい。それはそれとして、先祖に了解してもらって、次のステップに行くしかないのかな。協力するしかないのかなと」と話した。
圓谷さんのように、自宅などの移転を迫られる地権者は約800人に上る。

<越水をゼロにする計画も>

遊水地の整備に加えて、国は東日本台風での阿武隈川の越水を踏まえ、川底の土砂を取り除く河道掘削を行っている。川の流れをスムーズにするためのもので、東日本台風と同規模な雨が降ったとしても水位は1.7メートル低下すると見ている。

河川の管理者の対策だけでは、被害者ゼロを実現するのは難しい。圓谷さんのように、何かを犠牲にしてでも安全を最優先する決断があることを忘れてはいけない。

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