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防災大百科 災害報道の語り部でありたい
災害から住民の命を守るために、市町村では様々な防災対策を進めている。市町村の代表者である市町村長や住民代表から、それぞれの地域の防災「わがまち防災自慢」について話を伺う。今回、東京大学大学院の客員教授で防災行動や危機管理の専門家・松尾一郎さんが訪ねたのは、「逃げ遅れゼロ」を目指し対策を進める福島県いわき市。
◇動画はYouTube 福島ニュース【福テレ】でご覧いただけます。
垂直避難に 地域防災交流センター
「逃げ遅れゼロ」を目指す、いわき市。「地域防災交流センター久之浜・大久ふれあい館」は、通常は市役所の支所、公民館として活用する。一方、有事の際には「垂直避難」ができるビルとして2016年に運用が始まった。
壁に書かれた「ここを蹴る」
防災マイスターがまず注目したのは、壁に書かれた「ここを蹴る」という文字。案内してくれた内田広之市長は「ここの壁を蹴ると、突き破れる。休日や夜など職員がいないときもあるので、そういう時に地域の方が急いで避難できるように」と説明した。
運用開始から8か月後に、福島県沖地震で津波警報が発令された際には住民10人ほどが実際に避難した。
備蓄庫には3日分の水や食料
内田市長は「やはり最初の3日間の、初動対応が勝負だと思っている。4日目以降は外部から水とか食糧が入ってくると思う。最低3日は生活できるように、食糧・水・毛布も備蓄している」と話す。
教訓を伝える
東日本大震災で69人が犠牲になった久之浜・大久地区。館内にある「防災まちづくり資料室」では、津波や火災が襲った住宅地の写真や、実際に避難所で使われていたものなどが展示されている。
逃げ遅れ・災害死ゼロを目指して
60キロの海岸線を抱える、いわき市。高さ7.2メートルの堤防や、防災緑地の整備といったハード面のほかに、市内で1000人を超える防災士を、すべての自主防災組織に割り当て、地域防災をリードする「登録防災士」の制度も全国で初めて導入した。
内田市長は「地域で、まずは健康な方や逃げられる方は自分たちの命を守ってもらいながら、行政は支援が必要な方とか、本当に助けが必要なところに特化してやれるようなことを、年々防災力を高めながら進めている。市民の命を守るために、絶対やらなくてはならないこと」と語った。
住民レベルの防災
いわき市久之浜町で津波を経験した阿部忠直さん。以前住んでいた自宅は津波に流された。「人のどよめき、うわーっていう声が聞こえた。8mとも9mとも言われている津波が一瞬のうちに襲った」と当時の様子を語る。間一髪、避難所まで逃げたため一命をとりとめた阿部さん。約500mほど離れたところに自宅を再建し、妻・ヒサエさんと二人で生活している。
助けられた命で出来る事
妻のヒサエさんは津波に飲み込まれたが、近所の人に助けられ九死に一生を得た。ヒサエさんは「瓦礫に乗ると沈んじゃうものですから、とりあえず消防の助けが来るまで待っているように。助けられた命だなって。だから、ちょっとだけでも生きるための努力をしようかなって」と語る。
夫婦それぞれの経験を伝える
阿部さんは、教育旅行などで福島を訪れた人などに経験を語る「語り部」として活動している。語り部の思いを阿部さんに伺うと「結局ね、犠牲者をとにかく少なくしたい。それだけ。避難の準備だけは頭の中で描いておいて、いざという時は行動できるようにして欲しいっていうことは最後に必ず訴えている」と話した。
生の声が防災につながる
書物や記録だけでは伝わらない、「生の声」で。記憶の風化を防ぐことが「防災と減災」に繋がると信じている。
「避難行動を迅速にとって、犠牲者を少なく生き延びるかっていうことを、一人でも学んでいただければ。経験した者の責任なのかなと思っている」
69本のサクラの木
地区の堤防には震災で犠牲になった69人と同じ69本のサクラが植えられた。阿部さんは「自分は観ることができないかもしれない、だからこそ若い人に見てもらい、周りに伝えてほしい」と話していた。
記憶の風化
阿部さんがそう話す背景には、記憶の風化があるから。2021年の調査で、60代以上は88%が「はっきりと覚えている」と回答した一方で、20歳未満で「はっきりと覚えている」と答えたのは39%、「ほとんど覚えていない」が21%に上っている。
災害や防災を他人事とせず自分事にするためにも、阿部さんのような活動が大きな意味を持つ。