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3人死傷の猪苗代湖ボート事故 控訴審は逆転無罪 一審判決を破棄 加速した船舶に死角 被告の過失認めず

仙台高等裁判所は2020年に猪苗代湖で3人が死傷したボート事故の控訴審で、一審判決を破棄し「無罪」を言い渡した。

<一審では禁錮2年の実刑判決>
家族と訪れていた福島県の猪苗代湖で航行するボートに巻き込まれ亡くなった豊田瑛大くん、当時8歳。
ボートを操縦し瑛大くんを死亡させ2人に大ケガをさせた罪に問われていた男性に、一審は「適切な安全確認をしていれば、被害者を発見し、衝突は回避できた」として禁錮2年の実刑判決を言い渡した。

<無罪を主張>
男性の弁護側は、即日控訴。
2024年9月から始まった控訴審で、弁護側は当時の状況を再現した実験結果などを示し、「湖面に動いていない人が浮いていると予見することは困難」「加速した船舶には死角ができるのも明らかで、被告の安全確認に落ち度はない」などと無罪を主張。
また男性も法廷で「前方、左右隈なく確認した」「本当に見えなかったと分かってほしい」と供述していた。
これに対し検察側は「過失があることは明らか」と控訴の棄却を求めていた。

<一審判決を破棄 無罪に>
迎えた12月16日の判決公判。仙台高等裁判所の渡邉英敬裁判長は、最初に判決の理由を述べた。
「一審が認めた検察側の実況見分では、弁護側が出した新証拠とされる実証実験のように、船舶の加速後の死角の発生が考慮されていない。前方左右を注視していたとしても被害者らを発見できたとは言えない」
こう述べた上、一審判決を破棄し男性に無罪を言い渡した。

<判決のポイント記者解説>
◇一審判決を破棄して、「無罪」。今回の判決のポイントはどこにある?
裁判の争点は大きく、「湖に人が浮かんでいることを予見できたか?」「事故は回避できたか?」の2点だった。

弁護側が新たな証拠として示した「実証実験」、これが判決の大きなポイントになった。弁護側によると、この実験とは当時と近い状況で事故を起こした船舶を航行させ、加速した船の死角や湖面の見え方などを写真や動画などでまとめたもの。
その結果、加速した船舶は船頭が上がり、死角ができるのは明らかで、被告の安全確認に落ち度はない。湖面に動きもせずに浮いている人がいると予見することは困難として、無罪を主張してきた。

◇この新たな証拠を裁判所はどのように判断した?
一審から検察側が示してきた証拠と照らし合わせた上で、弁護側の新たな証拠を支持した形になる。
裁判所は、加速した船舶の死角を認め、「左右に見張りを厳に行い、安全確認をしながら航行したとしても、被害者を発見することが出来ない」「事故を回避することが出来なかった具体的な可能性を否定できない」として、男性の過失を認めず無罪とした。

◇瑛大君の遺族側は判決をどう受けとめている?
遺族は「本日の判決は、到底納得できるものではありません。生命を奪われて一生背負う重大な傷害を負わされたのに無罪とは、この国の司法制度が本当に機能しているのか、もう一度問いたいので上告審での審理を強く求めます」としている。
また、無罪となった男性は「本日、無罪の判決をいただきました。私は、当時十分な針路の安全確認を行っていました。この度の控訴審判決は、その点を確かな証拠に基づいてお認めくださったものと理解しています」とコメントしている。

16日の判決から2週間以内に上告の申し立てがなければ、無罪が確定する。