<福島第一原発>9mm×7mm わずか0.7gの燃料デブリ採取で廃炉は"最終段階"へ

2024年11月、福島第一原子力発電所では事故後初めて、燃料デブリの採取に成功した。
この燃料デブリの採取開始(2024年9月)により、廃炉は最終段階の「第3期」に移行するなど、今後の工程にとって重要なステップを踏んだことになるが、採取できたのは約9mm×7mm、重さはわずか0.7g。
1号機から3号機までには約880tのデブリが残ると推計され、まだ廃炉への明確な道筋を描くには足りない。
【"燃料デブリ"とは?】
2011年の福島第一原発の事故当時、1~3号機は稼働中だったため、炉心に燃料が格納されていた。事故発生後、非常用電源が失われたことで炉心を冷やすことができなくなり、この燃料が過熱し、燃料棒や炉内構造物とともに溶融。その溶融物が冷えて固まったものが"燃料デブリ"である。
道路脇の側溝のフタのようなグレーチングにこびりついているものもあれば、原子炉本体"圧力容器"から溶け落ちた状態で固まり"つらら"のようにぶら下がっているもの、格納容器底部に固まっているものなどがあると推定されるが、放射線量が高く、直接人の目で確認することができないことから、デブリの正確な位置や形状の全容は把握しきれていない。
【"燃料デブリ"の弊害】
燃料デブリは福島第一原発における、いわば"放射線の発信源"。格納容器の内部では、ドローンやロボットに取り付けたカメラで遠隔による内部調査が行われているものの、高い放射線により機器が不具合を起こすため長時間の調査は厳しく、内部の正確な情報をつかむことを困難にしている。
「内部が把握できない」ということは、明確な廃炉の道筋を描くうえでも大きな障壁となる。
また、燃料デブリそのものに加え、これに触れた水が"汚染水"となり、ここから大部分の放射性物質を取り除いたうえで海水で薄めて海に放出する"処理水の海洋放出"は今も継続中。
高い放射線が放出される限り近隣住民の帰還環境も整わないため、デブリへの対処が廃炉の"最難関"であり"本丸"とされている。
【採取は順調にはいかなかった】
燃料デブリの試験的取り出しは当初、2021年中に実施されるはずだった。
しかし、ロボットの製作遅れ、さらにロボットが通るはずの経路に堆積物の詰まりが発覚するなどして延期を繰り返す。78億円をかけて製作した大型のロボットは"後回し"にされ、狭い範囲を通れる"釣り竿型"のロボットを新たに製作したうえで、ようやく準備が整ったとして2024年8月に着手されるはずだったが、さらに「ロボットを押し込むパイプの順番が間違っていた」というミスにより中断。現場確認を協力企業任せにしていた東京電力の体制も問題視され、齋藤経済産業大臣(当時)は東京電力の小早川社長に対し「地元、国内外に不安を抱かせるものであり猛省を促す」とした。
また、取り出し作業の再開後、9月にはカメラの不具合で再び中断し、採取の完了は11月となった。
大型のロボットにはケーブルの劣化などの問題も発覚し、東京電力は2025年の3月から4月にかけ、再び"釣り竿型"のロボットで採取に挑むとしている。
【1粒から何が分かるのか】
採取された燃料デブリが運び込まれ、分析の中心となっているのは日本原子力研究開発機構(JAEA)。JAEAは「原子力に関する総合的な研究開発機関」として、国が策定した目標に従い研究開発を行う機関で、1979年にアメリカ・スリーマイル島の原発事故で発生した燃料デブリの研究も行ってきた。
JAEAによると、スリーマイル事故では溶け落ちた燃料が圧力容器のなかに留まったのに対し、福島第一原発事故では燃料が圧力容器を突き破り格納容器の底にあるコンクリートと混ざり合ったという点に違いがある。研究者は「核燃料が格納容器の下に流れコンクリートと高温で反応したというのは福島第一原発事故以前には前例がない」としている。
採取から半年~1年をかけて分析を行う計画だが、これまでに、
・採取デブリから1~2cmの距離で8mSv/h※
・核燃料の主な成分であるウランが表面に広く分布
として、JAEAは「典型的な燃料デブリ」と評価している。
※日本で一般の人が1年間に自然から受ける放射線量(約2mSv)の4倍の量を1時間で受ける計算
採取デブリの成分を詳細に分析することで、事故後にどのようなことが原子炉内で発生していたかをつかむ手掛かりとなり、また、硬さなどの情報を知ることで、今後の燃料デブリの取り出し工法の検討に貢献できるとしている。
【今後は3号機で"大規模取出し"も】
2011年の事故で、1号機と3号機は水素爆発を引き起こした一方、2号機は原子炉建屋の側面パネルが1号機の水素爆発の衝撃で開いたことで爆発を回避した。まず2号機で試験的取り出しが行われているのは、現場の放射線線量が比較的低く、早期に原子炉格納容器内部にアクセス可能と判断されたことが背景にある。
2号機では2025年3月から4月にかけて2回目の試験的取り出しが計画されているほか、大型のロボットでの取り出しも2025年度後半に着手する計画が示されている。
一方、水素爆発を起こした3号機では、燃料デブリの"大規模取り出し"が計画されている。
気中で水をかけながら取り出す方法や、建屋を水で満たしてから取り出す方法などが検討されていたが、廃炉作業への助言を行う「原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)」は「原子炉内のデブリの一部をセメントのような充填剤で固め、気中で取り出す」という方法の採用を決定していた。
この決定をもとに、東京電力が具体的なスケジュールや予算規模などの検討を行っているところで、東京電力はNDFからの聞き取りに対し「2025年度半ばまでに検討を完了したい」としているという。
1号機は水素爆発によりガレキが飛散している状態であるため、原子炉建屋全体を覆う大型カバーを2025年夏頃までに設置し、まずはその中でガレキ撤去を行う計画が進行中。ドローンを使った格納容器の内部調査は行われているが、具体的な燃料デブリのアクセスについてはまだ工程が示されていない。
福島第一原発の1号機から3号機にあるデブリは約880tと推計されている。
国と東京電力は2051年までの廃炉完了を掲げている。
【燃料デブリ試験的取り出し・これまでの経緯】
■2021年:当初の試験的取り出し着手予定
⇒ロボットの開発遅れ、経路への堆積物の詰まり発覚などで延期
■2024年8月22日:試験的取り出し着手を計画するも「現場での棒の順番ミス」が発覚し取りやめ
⇒東京電力が現場に立ち会っていなかったことなどが問題に。
管理体制の見直しを行う。
■2024年9月10日:試験的取り出し作業に着手
■2024年9月14日:ロボットが一度デブリをつかむ
■2024年9月17日:カメラ4台のうち2台の映像が見られなくなるトラブルで中断
⇒高い放射線が影響でカメラ内部に電気がたまり不具合を起こしたと推定。
カメラ交換を決断。
■2024年10月24日:カメラの交換作業を完了
■2024年10月28日:試験的取り出し再開
■2024年10月30日:デブリの把持・吊り上げに成功
■2024年11月2日:デブリを事故後初めて格納容器外へ取り出し成功
■2024年11月5日:放射線量が「取り出し」基準クリアを確認
■2024年11月7日:試験的取り出し作業完了
■2024年11月8日:デブリの水素濃度などが輸送の基準を満たすこと確認
■2024年11月12日:事故後初めてデブリを第一原発構外へ 研究施設へ輸送
■2024年12月26日:JAEA「採取デブリからウラン検出」公表し「典型的な燃料デブリ」と評価
■2024年12月:デブリの非破壊分析が完了・分析機関に分配するためデブリを砕く
■2025年1月8日:JAEA「5つの分析機関への分配決定」公表
■2025年1月10日:デブリの一部をJAEAからMHI原子力研究開発株式会社(NDC)に輸送
■2025年1月22日:デブリの一部をSPring-8とJAEA原子力科学研究所に輸送完了
■2025年1月31日:デブリの一部をJAEAから日本核燃料開発株式会社(NFD)に輸送。予定されていたすべての研究施設への輸送が終了。