ロケット開発支える地元企業の技術力 被災地から航空宇宙産業の一大拠点へ《福島・震災12年》
福島県の浜通りと原発事故で避難指示を受けた市町村で進められている"イノベーション・コースト構想"。この構想は、失われた産業を回復させようと「廃炉」や「ロボット・ドローン」など重点分野の企業を集めるほか教育・人材育成といった取り組みを進めるものだ。その重点分野の一つに「航空宇宙」産業がある。進出企業の研究・開発を地元企業の技術力が支えている。
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福島県南相馬市で航空機部品の加工を手掛けるHAT。
HAT福島事業所長・橋本崇志さん:「正式なデータと実際に加工されたデータの偏差を色で表しています。おおよそ緑色になっているので、プラスマイナス100分の2ミリ位の(偏差で)出来ているという事になります」
精度が高い金属加工。こうした高い技術力は、福島ロボットテストフィールドや浜通りに進出する企業・研究者にとって魅力の一つで、大きな支えとなっている。
HAT福島事業所長・橋本崇志さん「新しい企業さんが来る事で、地元に残る人も増えてくると思うので、そういった面では、活性化に繋がるのかなと思っています」
HATなど地元企業にとっては、新たな分野に挑戦するきっかけともなる。実業家のホリエモンこと堀江貴文さんが創業した宇宙関連のベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」。国内で初めて民間が単独で開発したロケットを宇宙空間に送り込んだ会社だ。超小型の人工衛星を宇宙に運ぶロケットの開発に取り組んでいて、南相馬市の企業が持つ高い技術力に着目。福島ロボットテストフィールドに備わる実験環境も決め手の一つとなった。
インターステラテクノロジズ・稲川貴大社長:「非常に高い技術力を持った企業さんもいらっしゃったり、非常に稀有な場所だという風に認識しております」
宇宙空間の利用が進みロケットに対する需要も高まっていることから、2021年南相馬市に拠点を設けて、地元企業と連携しながら開発を進めてきた。
HATは、ロケットのエンジンに関わる部品の開発・製造に加わっていた。そして、2月に重要な試験が行われた。
インターステラテクノロジズ開発部・山岸尚登さん:「フェアリングの分離放擲試験という事を実施しようとしています。そこの割れ目の所からフェアリングが『パカッと』開いて分離すると」
「フェアリング」とは、超小型人工衛星を格納するロケットの先端部分で、宇宙空間でロケット本体から切り離され衛星を軌道に投入する、まさに成功のカギを握る部分だ。
インターステラテクノロジズ開発部・山岸尚登さん:「地元の取引先さんも開拓しながら進めてきたという事で、打ち上げに対しても会社としても非常に大きな意義のある試験となります」
この試験にも南相馬市の別の企業が関わっていた。
原町電機・菅野哲生社長:「数ある南相馬市の製造業の会社さんの中から弊社を選んで頂いて、身の引き締まる思いというか」
南相馬市で配線を束ねたハーネスなどを製造する原町電機。HATと同じく、持っている技術を活かして、ロケットに電気信号を送る部品を担当した。
原町電機・菅野哲生社長:「ケーブルがありまして、こちらのコネクタの方にですね、ハンダ付けを行いましてチューブを被せているという状態になっています」
震災・原発事故で浜通りと避難指示を受けた地域の産業も大きなダメージを受けた。
そこで、この地域に「航空宇宙」や「廃炉」「ロボット」などの新たな産業を根付かせようと、国などが推進し4700人余りの雇用を生み出してきた"イノベーション・コースト構想"。
南相馬市の人口は、5万7000人余りと震災前より1万3000人余り少ないままで、原町電機の菅野さんは、航空宇宙産業が根付いて地域が活性化することを望んでいる。
原町電機・菅野哲生社長:「まだまだ若い方の力っていうのが全然足りないと思ってますので、若い方がどんどん戻ってきて欲しいなと思う所はありますね」
多くの人の夢や希望を乗せたロケットの試験。分離計画通りに装置が作動し、試験は成功。2024年度の打ち上げが目標のロケット開発で重要な一歩、復興を進める南相馬市にとっても大きな一歩となった。
原町電機・菅野哲生社長:「少しでも多く弊社の『南相馬市産』という所での製品がお出し出来るように、弊社も少なからず、努力はさせて頂きたいと思います」
被災地から航空宇宙産業の一大拠点へ...着実に歩みを進めている。