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令和の大改修 阿武隈川の遊水地整備は高台移転が課題 専門家は「日頃の備え」指摘《東日本台風から5年》

台風19号が残した大きな爪痕を踏まえ、国が福島県や市町村と連携し、阿武隈川と支流で「令和の大改修」を行っている。2028年度までに東日本台風と同規模の雨に耐えられるような対策が実施されていく。

<令和の大改修>
例えば「河道掘削」。川底の土砂を取り除いて水が流れる面積を広くし、氾濫のリスクを低下させる。2024年3月までに8割が完了していて、2028年度までに完了させる予定。

そして「堤防の強化」。新しく堤防を整備したり、既存の堤防をかさ上げしたりすることで氾濫のリスクを低下させる。現在も工事が続けられている。

また「遊水地」の整備を進めようとしている。遊水地は低くしておいた堤防からわざと川の水をあふれさせ、ここに一時的に溜めることで市街地に流れ込む水を減らすというもの。
阿武隈川上流に位置する福島県の鏡石町・矢吹町・玉川村の3つの自治体で、この遊水地を整備し、国は2028年度の完成を目指している。
ただ遊水地をめぐっては、地権者の「高台移転」も課題となっている。

<遊水地予定地の住民は>
圓谷正幸さん:「見える範囲ずーっと360度が全部遊水地の敷地になる形になります。その中にこの私が作った(農業用)ハウスも含まれているということになります」

自宅と13棟の農業用ハウスが高台移転の対象となっている鏡石町の圓谷正幸さん(56)。
地域の人たちとともに集団移転先に新居を構える予定だったが、2024年2月になって国から「集団移転先に農地は作れない」と説明を受けたため、急遽、引っ越し先の土地を探している。

<農家は国の政策に翻弄>
「ここがちょうど、見えるところが私のハウスと家になります」と説明する圓谷さん。建設予定地にすっぽりとはまった自宅は、5年前の阿武隈川の氾濫で浸水。
2027年度までに自宅と農業用ハウスを更地にして引き渡さなくてはならないため、引っ越しを完了して今の自宅を解体することを考えると、今年中には引っ越し先の土地を決めなくてはならない。

圓谷正幸さんは「農業機械からハウスからすべてなくしたので、あの思いはしたくないので。台風来るたびに心配して『逃げないといけないのかな』っていう思いをする事が少なくなるということでは、良いのかなっていう思いがあったんで、協力したいってことがあったんですけど、いつまでここにいていいんですか?って。令和何年ですってのも聞かないと言われないし、何年もなるわけですから『やります』って言ってから。私はもう今の時点で出来上がってるもんだと思ってましたんで。移転も終わって」と訴える。

自宅などが移転の対象となる地権者は約150世帯。国は3割ほどの売買契約が成立したとしている。

国は「住民の意向を調査した上で、宅地とは別に農地の集団移転についても検討したい」としている。
一方で、遊水地を含めたいわゆるハード面の整備を過信しすぎてはいけない。

<専門家の指摘>
福テレ防災アドバイザーの松尾一郎さんは「東日本台風で、災害対策に絶対はないことを理解できたと思う」と話し、日頃の備えの重要性を訴える。
「短い時間の中で降る雨の量は、多分これから今の倍以上になると思う。そうすると、河川や下水でのみ込める降水量は限界があるんですよ。最後の最後は自分自身しかない、身近な家族しかいない。だから、今からちゃんと、何が起こるか、浸水や洪水のリスクを知って、早めに逃げる場所を今から考えておく」

また、松尾さんは「市町村が、早めの避難の呼びかけを出来るように仕組みを変えていかなくてはならない」と「国・県・市町村がそれぞれの役割で対策を進めること」の重要性も説いている。

行政も私たちも防災のありかたを考え、常にアップデートしていく必要がある。