【“燃料デブリ取り出し”のギモン】「敵」はデブリだけなのか?<福島第一原発>
福島第一原子力発電所2号機では、11月7日に、事故で溶け落ちた核燃料=燃料デブリの試験的取り出しが完了し、11月12日に事故後初めてデブリが原発構外へ輸送された。
取り出されたデブリの重さは約0.7グラム、放射線量はデブリから20センチの距離で1時間あたり0.2ミリシーベルト。輸送前の測定で、ウランが核分裂したときに生成される「ユウロピウム」が検出された。
11月14日に開かれた福島第一原発事故の分析に係る検討会では、原子力規制庁が「核分裂片としてのユウロピウムというのはなかなか外に出てこなくて検出ができてこなかったもの」「燃料デブリの明らかな一部と考える」とし、東京電力に詳細な分析を求めた。
燃料デブリの試験的取り出しの開始をもって、福島第一原発の廃炉は最終段階の「第3期」に入った。国や東京電力は2051年の廃炉完了を掲げているが、現状で、1号機から3号機までの明確な「廃炉の姿」は示されていない。
【なぜデブリは廃炉の「最難関」?】
燃料デブリは第一原発での高い放射線の「発信源」となっている。
原子炉本体である「圧力容器」はもちろん、その周りを囲む「格納容器」にも現状で人が直接入ることはできない。
カメラをつけたロボットを使って遠隔での調査を行っているが、高い放射線はカメラやロボットにも影響を及ぼすため、長時間の調査はできない。実際、今回の燃料デブリの試験的取り出しをめぐっても、高い放射線が原因になったとみられカメラが不具合を起こし、「目」の無い状態で作業は継続できないと一時中断した。
人の目で直接確認できない格納容器の中は、デブリだけでなく爆発の衝撃で吹き飛んだ構造物が飛散しているが、その明確な場所もつかみ切れていない。
デブリの取り出しは「廃炉」そのものの達成に関わる作業であり、原子炉の中を把握する作業を進めていくにあたってもデブリ自体が障壁となっていることなどから「最難関」とされている。
【デブリ以外の廃炉の障壁1:水】
原子炉に降った雨や地面の下を流れる水は、燃料デブリに触れることによって放射性物質を含み「汚染水」となる。ここから大部分の放射性物質を取り除いて「処理水」とした水は、2023年8月から薄めて海に流される「海洋放出」が開始されている。2024年11月4日には通算10回目となる放出が完了、ここまでの累計で約7万8300トン、タンク78基分が放出されていて、周辺の海水の分析などで基準を超える値は確認されていない。
一方、東京電力によると、11月7日現在で第一原発構内のタンクにたまっている「処理水」や「処理前の水」は約130万トン。タンク容量全体の94%を圧迫している。
また、中国による禁輸措置などの影響で取引に損害が生じたとして、処理水に関する賠償は10月30日時点で約310件・約450億円が事業者などに支払われている。1か月で約30億円増加していて、損害は続いている。
【デブリ以外の廃炉の障壁2:生み出される新たな放射性物質】
「汚染水」を「処理水」にするためには、放射性物質を吸着するフィルターを通している。このフィルターは放射性物質を吸着しているので放射線量が極めて高く、フィルターの保管施設は増設が重ねられ、こちらも敷地を圧迫している。
これまでの福島テレビの取材に対し、経済産業省資源エネルギー庁の木野正登参事官は「あと数年は置き場が持つが、それ以上の置き場も考えていかなくてはならない」としていた。
【デブリ以外の廃炉の障壁3:耐震】
廃炉作業において「新たな災害」への耐久能力は極めて重要な課題。
特に第一原発1号機では、ロボットによる調査で原子炉本体「圧力容器」を支える土台部分にコンクリートの損傷が確認されたことから耐震性の悪化が懸念されている。
一方、事故後に存在が確認されず評価条件から外されていた土台の「芯」となる鉄板が調査で確認されるなどしていて、東京電力は最新の状況を踏まえて耐震性の評価を行っている。
2023年10月に行われた原子力規制委員会の「特定原子力施設監視・評価検討会」で東京電力は、「評価基準の1・5倍の揺れを想定しても、土台が圧力容器を支えられる」と評価した結果を提示。これに対し原子力規制委員会は「圧力容器や格納容器、合わせておよそ2千トンが地震によって転倒し建屋に直接衝突するなどの極端な場合を想定しても建屋の健全性は十分に維持できる」とした一方、事故時の正確な状況や原子炉内部の詳細が把握できていないことなどから「耐震評価として妥当性を判断することは困難」とし、東京電力に耐震性評価の継続を指示していた。
また1号機では、原子炉内にたまった水が、地震の揺れなどで建屋に衝撃を与えることが懸念されているため、東京電力が注水を計画的に減らす作業を実施。
燃料デブリがあることで原子炉内が詳細に把握できないことは、原子炉そのものや作業の安全性にも大きく影響している。
【今後の「燃料デブリ取り出し」について】
東京電力は今後の燃料デブリの取り出しについて、今回の「釣り竿ロボット」ではなく大型の「ロボットアーム」という装置を用いて2号機での試験的取り出しを行う方針を示している。この「アーム」は現状の「釣り竿」よりも操作性が高く、デブリを取り出す範囲が広がる可能性が期待できる一方、現状の装置を取り外して新しくアームを設置しなければならなかったり、ロボット自体が大きいために引っかかりや詰まりなどの心配がある。
前述の11月14日に開かれた福島第一原発事故の分析に係る検討会では、原子力規制委員会の山中伸介委員長が「データをとるのであれば、もう少しこのままサンプリングを続けてはどうか。順調に行っている状態なのであと何サンプルか取り出す検討をしてもらえれば」との発言もあり、東京電力は「総合的に検討する」とした。
【これまでの経緯】
■2021年:当初の試験的取り出し着手予定
⇒ロボットの開発遅れ、経路への堆積物の詰まり発覚などで延期
■2024年8月22日:試験的取り出し着手を計画するも「現場での棒の順番ミス」が発覚し取りやめ
⇒東京電力が現場に立ち会っていなかったことなどが問題に。
管理体制の見直しを行う。
■2024年9月10日:試験的取り出し作業に着手
■2024年9月14日:ロボットが一度デブリをつかむ
■2024年9月17日:カメラ4台のうち2台の映像が見られなくなるトラブルで中断
⇒高い放射線が影響でカメラ内部に電気がたまり不具合を起こしたと推定。
カメラ交換を決断。
■2024年10月24日:カメラの交換作業を完了
■2024年10月28日:試験的取り出し再開
■2024年10月30日:デブリの把持・吊り上げに成功
■2024年11月2日:デブリを事故後初めて格納容器外へ取り出し成功
■2024年11月5日:放射線量が「取り出し」基準クリアを確認
■2024年11月7日:試験的取り出し作業完了
■2024年11月8日:デブリの水素濃度などが輸送の基準を満たすこと確認
■2024年11月12日:事故後初めてデブリを第一原発構外へ 研究施設へ輸送