被災地に自立求める声も 川内村が復興事業費用の検証始める 道半ばの復興を進めるために《東日本大震災》
東日本大震災から14年。震災から現在までに福島県川内村で行われた復興事業の総額は約530億円。費やされた膨大な費用は、復興にどのような効果を生んだのか。検証が始まっている。
■復興に甘んじない
川内村が2024年5月から始めた検証作業で、リストアップされたのは13年間で行われた復興事業1516項目。総額で530億円に上る事業の中から、費用の大きいものや時間がかかったものなど46項目を選別し、その目的や費用を精査し各部署へのヒアリングを通して「継続」や「縮小」などの評価を進める計画だ。
川内村の遠藤雄幸村長は「前のめりになって復興事業を進めた結果、振り返るということをしてなかった。いつまでも被災地だという、復興に甘んじるわけにはいかない。どこかではしっかり自立をしていくというタイミングは必要だ」と話す。
■復興の原動力「復興予算」
原発事故で一時、住民全員が村外に避難した川内村。村は震災の1年後に避難区域が設定された自治体の中で最も早く「帰還宣言」を出して役場機能を村内に。2012年4月には保育園と小中学校を再開させるなど、いち早く復興に向けて動き出した。その原動力となったのが"復興予算"だ。
■村での生業再生へ
生業再生のけん引役に成長した「かわうちワイン」。2015年から圃場の整備を始め、2021年にワイナリーをオープンした。着実に生産数を増やし、大手コンビニ店でも販売されるようになった。かわうちワイン株式会社の猪狩貢代さんは「第2のステージ目指して、次の10年はさらなる発展したおいしいワインができればいいかなということで、会社・スタッフ一同取り組んでいるところ」と語る。
■新たな生業 移住者の挑戦
さらに2024年からは、新たな酒造りが村内で始まった。クラフトジンの蒸留所「natura distill」で働く高橋海斗さんは「ここに入っているのは、うちのメインボタニカル・キーボタニカルのカヤの実。将棋盤とかを作っていた材木」と自慢のジンを紹介する。
豊かな自然に囲まれながら世界に向けた酒造りを目指す村に共感し、家族3人で移り住んだ高橋さん。その決断を支えたのは、村営住宅の提供など移住者に向けた手厚い支援だ。
「移住してきて一番大変なのは、何があるかが分からないとか生活のスタートの段階。色々と気にかけてくださった方が非常に多くて、すぐに慣れて生活ができたのが、家族みんなで助かった」と高橋さんはいう。
■一般会計予算は震災前を上回る規模に
移住や定住もあり、震災前の6割程まで居住人口が回復した川内村。(※現在の居住人口は1856人、震災前は3038人が居住) それには、復興予算が必要不可欠だった。
震災前、25億円余りだった村の一般会計予算は、震災後の2012年度には72億8000万円と震災前の約3倍に。2020年度の93億4800万円がピークとなり、その後も震災前を上回る規模が続いている。
■実を結ばなかった事業も
数多くの事業の中には、実を結ばなかったものもあった。雇用を生み出すため、2017年に28億円をかけて整備した田ノ入工業団地。11区画を設けたが、現在稼働しているのは機械部品の製造会社など2社だけだ。立地の悪さと、周辺自治体も企業誘致に乗り出したことなどが影響した。
■次の5年も十分な予算を
2025年度に終了する「第2期復興・創生期間」。石破首相は「次の5年間は復興に向けた課題を解決していく極めて重要な期間であり、これまで以上に力強く復興施策を推進していく必要がある」と話し、その後の5年間についても十分な予算を確保するとしている。
■被災自治体 自立のタイミング
一方、震災から14年が経ち「自立」を求める声も強まりつつある。そうした中で、まだ道半ばの復興をさらに進めるために、双葉郡で唯一、震災の時からリーダーを務める遠藤村長がたどり着いたのが今回の検証作業だった。
「これまで進めた事業でこういう効果があった、だから新たなステージでも継続するというような判断材料にもなるのではないか。帰還していない村民が戻れるような環境を作っていくにはもう少し時間が必要だと思うし、やはり国の社会的な責任を果たしてほしいと思います」と遠藤村長は語った。
■復興の現在地
東日本大震災から14年が経っても、いまだ福島県内の一部では避難指示が続いている。
原発事故による放射性物質の拡散から、住民の危険を回避するために国が出した避難指示。事故から約1カ月後に、東京電力・福島第一原発から20キロ圏内の立ち入りが制限された「警戒区域」をはじめ、福島県全体の約12%に3つの避難区域が設定された。
その後、福島第一原発の状況確認や県内の除染が進んだことなどから、避難区域は再編や解除が重ねられたが、いまもなお県全体の約2.2%に「帰還困難区域」として避難指示が続いている。
帰還困難区域のなかでは、国費で除染やインフラ整備を行う「特定帰還居住区域」の設定も進んでいて、帰還のための環境の整備が急がれている。