311を前にIAEAトップは何を見たか 中間貯蔵「安全基準に合致」

3月11日で、東日本大震災の発生から14年となる。
地震と津波に襲われ、水素爆発や炉心溶融などの過酷事故を引き起こした福島第一原子力発電所の廃炉は2051年と掲げられ、その約3分の1が過ぎた。
また、事故に伴い拡散した放射性物質を取り除くべく県内外で実施された除染の廃棄物などを運び入れた中間貯蔵施設をめぐり、法定の「県外最終処分」の期限までは残り約20年となる。
中間貯蔵施設に保管される比較的放射線量の低い土壌をめぐっては、公共工事で再生利用される方針だが、県内のごく一部での実証実験にとどまるのみで、再生利用の受け入れ先すら決まらない。
最終処分についても、環境省は減容化の段階ごとに4案を示し、必要な面積を最小で2haまで減らせるとしているが、最終処分地の決定は2030年頃以降として具体的な時期は盛り込まれていない。
2月19日、国際原子力機関(IAEA)トップのグロッシ事務局長は、中間貯蔵施設を初めて視察。
現状について「国際的な安全基準に合致する」との見解を示した。
【視察を終えたIAEAグロッシ事務局長の発言】
福島には何度も来ていますが、中間貯蔵施設に来たのは初めてとなる。このような重要なプロジェクトを自分の目で見ることができ、IAEAとしても深く関与していくつもりでいる。
Q IAEAとして環境省が示した技術的な選択肢の実現性をどのように考えるか?また、IAEAとしてどのように関与していくつもりか?
<グロッシ事務局長>IAEAにとって重要なことは、この中間貯蔵施設で実施されている活動は国際的に合意された基準に則って実施されているということ。安全に実施されているということが大事である。
日本の政府、各省庁では、土壌の処理の仕方については色々な意見があると思うが、そのことについてIAEAがどうこうと言うのではなく、これから実施されていくステップについて、IAEAとして国際的な安全基準に則って行われていることを体系的に確認していくということである。
2点目、我々は学習をしながらこれからも学習をし続けていくという立場にある。2024年に土壌に関する総合的な報告書※を発行した。これをもとに今後どういったステップやミッションを実施していくかについては環境省とも議論していく。
※IAEAの報告書
2024年9月公表。再生利用及び最終処分について、これまで環境省が実施してきた取組や活動はIAEAの安全基準に合致していること、今後、フォローアップ評価を行うことなどが示された。
Q 今後の再生利用について。現在1か所に保管されている除去土壌等を、全国各地の公共工事などで利用することは除去土壌を広げることになりIAEAの原則に反していないか?
<グロッシ事務局長>まだ仮定の質問かと思うが、粗々の原則というのは「合理的になるべく放射能濃度を低く抑える」ということである。再生利用された土壌が中間貯蔵施設以外の場所で使われるとしても必ずしもその原則に矛盾することにはならないと私たちは考えている。今後他のエリアに土壌が移るという場合にも、そのステップごとに守られるべきことが守られているのかはIAEAと環境省が協力し合いながら確認していくことになると思う。
また、住民の方々と今後も将来に向けての対話が続くことになるかと思う。科学的に土壌を今後どう扱っていくのかについては、有効的な活用という観点からも今後検討していくことになると考える。
【重要なのは"期限"ではなく"安全"】
Q 初めての視察。率直な感想は?
<グロッシ事務局長>IAEAの専門家チームから既に報告を受けていた状況・線量などを再確認できた。IAEAの安全基準にも合致しているということを確認した。それを現地で確認できた。非常に放射線量も低いレベルだし、さらにそれを土で覆って遮蔽することで環境に露出させないという非常に保守的な手法がとられている。率直に言って、中間貯蔵施設での放射線量と自然から受ける放射線量のレベルの差の説明も難しいくらいだ。
Q 2045年までの県外最終処分。時間がないが実現可能性を高めるためにIAEAはどう関与していくか。
<グロッシ事務局長>2045年という期限はIAEAが設けたものではない。もしかするとそれより先になるかもしれないし、前倒しされるかもしれない。私たちにとって県外最終処分の期限は重要だが、もっと重要なのは、それが安全な方法で行われるかだ。
行政も一貫した政策と予算、様々な同意が必要になるかと思うが、ここにIAEAがどう関われるかについては環境省とも議論をする。
Q 除去土壌が福島県外で使用されることはどう思うか?
<グロッシ事務局長>IAEAとしては安全基準に則ったように行われているかどうかということ、今後何をするにも地元との対話が重要になってくると思う。将来的に何らかの決定が下される際には、適切な対話がされるだろうと信じている。
【東京電力とは"透明性"が重要との議論】
Q 東京電力の小早川社長とどのような話をしたか?
<グロッシ事務局長>小早川社長とは定期的に対話をしている。今日は廃炉プロセスの中で現状どうなっているのかということについて話を聞いた。今朝、重要なマイルストーンとして、私自身も漁港に行って海水の採取を行った。参加した機関の中には中国や韓国、スイスの方々もいた。近隣諸国からは処理水の海洋放出について懸念が表明されていたということも踏まえ、各国の機関が参加できるようIAEAと日本が協議をして見出したのがこの形。このアプローチ含め透明性をいかに維持するかということを小早川社長とも話した。
また、2024年に燃料デブリの試験的取り出しができたということで、それをどのように評価しているのか、そしてその評価が今後の廃炉のステップにどういうふうに反映されていくのかというようなことも話を聞いた。
IAEAとして大事だと考えるのは、水に関するものであれ土に関するものであれ、その他燃料デブリに関するものでも、これらの活動が包括的に進められているということ。そして今後も継続していくことである。私たちから見て、遅延や迷っていることはないと見受けられるので、今後これを着実に進めていくことが大事である。こういった姿勢こそが地元の皆さんが期待している姿だと思う。
Q 日本産海産物の輸入規制をとる中国が追加モニタリングに参加する意義と影響は?
<グロッシ事務局長>近隣諸国からの懸念にどうこたえるかということが課題だったわけだが、これを解決する案として私が提案したのが、IAEAが連携し、既存のシステムの中に追加のステップを加えるということ。モニタリングに関心がある方は参加してくださいと。一緒にサンプリングをして一緒に評価するという取り組みを通して、サンプリング・モニタリングの健全性を強化するプロセスを作った。こういったことが信頼・信用を構築するのに重要なステップだと思う。