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傷ついたピアノに命を吹き込む ある調律師一家「修復を諦めない」 家族でつなぐ思い出の音色《私の家族》

<ピアノ家族の新年>
総勢20人の大家族...福島県いわき市の調律師・遠藤洋さんは、毎年家族みんなで新年を祝う。新型コロナの影響もあり、以前より"静かに"。
一年間のほぼすべての時間を、ピアノと向き合う遠藤さん。たとえ短くても、みんなで過ごせる時間は何よりも大切だという。

調律師・遠藤洋さん:「また今年も、頑張るぞっていう。ちょっとチャージしているような感じですよね」

遠藤さんの長男、慶彦さんと次男の悟さんは、遠藤さんと同じ調律師。父と兄2人を手伝う、長女の舞子さん。次女の優衣さんはプロのフルート奏者だが、遠藤さん一家はピアノと共に人生を歩む「ピアノ家族」だ。


<修復困難なピアノに再び命を>
遠藤さんの活動が全国に知られるきっかけとなった、2台のピアノがある。東日本大震災で津波に飲み込まれた福島県いわき市の豊間中学校の「奇跡のピアノ」、令和2年7月の豪雨で被災した熊本県の「希望のピアノ」
「奇跡」と「希望」...この2台のピアノを含め、遠藤さんが修復を手掛けたピアノはこれまで3万台に上る。

弾くときの感触がかたくなったり、音がずれたり。ピアノの寿命は30年ほどといわれている。遠藤さんは年月が経過したピアノだけでなく、台風などの被害を受け一般的には修復を諦めてしまうようなピアノに再び命を吹き込んできた。
「どんなピアノでも修復を諦めない」という調律師としてのポリーシーがあるからだ。

調律師・遠藤洋さん:「100年・150年っていけると思いますよね。200年いけるかもしれないですよ。うちのピアノはおばあちゃんが使っていたピアノだとかね、亡くなったひいおばあちゃんが使っていたピアノだとか、それがずっと使えるようなことになればね、最高ですよね」


<修復したピアノに家族の姿を重ねて>
「1台のピアノを引き継いでいく」...それは何世代にも渡って継がれていく家族の姿とも重なる。

調律師・遠藤洋さん:「なるべく長くできるようにと思ってはいるわけだけども。息子たちは息子たちで、自分がやらなくちゃいけない。この自分が置かれている立場の代わりになるって、薄々は感じてはいるんじゃないかと思いますけどね」

長男の慶彦さんと次男の悟さんが、いま取りかかっているのは令和元年・東日本台風で一部が水に浸ってしまったピアノ。

慶彦さんは部品や外装を元の姿に戻す繊細な作業に加え、高い経験値は父から評価。悟さんは音のずれを元に戻す「整音」の技術が特に秀でている。
修復の過程の技法などを巡り、家族の中でも激しく意見を交わすことも少なくないが、共通するのは「修復を諦めない」という気持ちだ。

次男・遠藤悟さん:「ピアノが形見とか、小さいころから使っていて思い入れがあるとか、どうしてもこのピアノをなおして今後も使っていきたいっていう方が、やっぱりいるんですよ」

長男・遠藤慶彦さん:「やはりお客さんの思い入れがあるピアノなので、それに応える形ってことですかね」

兄弟2人の作業を終えると、遠藤さんの最終的な調律へ。思い出の音色を取り戻し、ピアノは家族のもとへ還る。