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綿毛と雫...幻想的な世界 写真家・吉田陽一さん 大病乗り越え楽しく前向きに生きていく【福島発】

福島県南相馬市の吉田陽一さんは、綿毛や水滴などの組み合わせをモチーフに、日々写真を撮影している。見る人を魅了する幻想的な作品を通して、そして写真を撮り続けることで多くのことを届けようとしている。


■撮影はすべて一人で

「身体使うと言ったって手と口しかないから。口も半分がダメだから、言うことを聞かないのね」
右半身に麻痺がある吉田さんは、照明やピントなどの調整は左手で。煙の演出と撮影を口で同時にこなすこともある。吉田さんは「普通だったら1人じゃなくて何人かいるわけでしょ。雫垂らしてとか照明こっちだよとか。それを自分一人でやる。自分一人でやってどこまで行けるか」と話す。

■突然の病 「人生終わりかな」

南相馬市で「トモエ」という飲食店を営んでいた吉田さん。看板メニューは、スパイスが効いたカレーと味噌を合わせたインド味噌ラーメン。自慢の腕を振るってきたが、8年前に脳出血で倒れた。
妻の裕子さんは「そのまま寝たきりになってしまうのかなという感じで。リハビリしてどこまで回復するのか、不安でした」と振り返る。
意識は回復したが会話ができない状態が続き、「トモエ」は約40年の歴史に幕を下ろした。
「まあ終わりかなと思ったよね、もう人生終わりかなって」と吉田さんはいう。

■家族の支え 趣味を楽しめるまでに

吉田さんを支えたのが家族だ。懸命にリハビリに取り組み、右半身に麻痺が残るが寝たきりの状態から回復した。
30代の頃から趣味にしていた写真も再開できるようになった。妻の裕子さんは「好きなことをやって生活できていることに、すごく安心しています」と話す。
重いカメラを左手で支えるために、5キロのダンベルを持ち上げるなど毎日のトレーニングを欠かさない。

■ある人との出会い 芽生えた思い

外で撮影する機会は減ったが、机の上を舞台に幻想的な世界を写真に収める吉田さん。2024年に初めて開いた展示会で出会った、ある女性の言葉が印象に残っているという。
「写真ずっと眺めていた女性がいた。そして泣いていたのですよ。どうしたのですか?と聞いたら、私も身体障がい者で何もやってないと。吉田さんの写真を見て、勇気が出ましたって。負けないで生きてほしいですよね。言葉では何でも言える、負けないでと。でも、自分が負けないでやらないと意味がないからね」

楽しく、前向きに、生きていく吉田さん。作品は、福島県南相馬市原町区の「旧トモエ店舗」で展示している(南相馬市原町区南町3-77)。また2025年3月1日から3月22日まで、南相馬市の中央図書館で3回目となる写真展も開催する予定。来場した人には、写真のプレゼントなども予定しているという。